和風建築の耐震改装
Before
ご依頼を頂いた田舎建ての和風建築です。
お客様の想い
お客様としては、親御さんが立ててくれたお家を自分の代で壊したくないということ、またお子様達も自分達が育ち、たくさんの思い出がつまった家を残しておいて欲しいとおっしゃっていることから、建て替えは避けたいとの事でした。
今風の家なら改装するよりも安く出来るかもしれませんが、このような和風建築の材料を使った家はとても高くつくと言われています。
リフォームするにあたり、改装条件は以下の5点でした。
・四つの和室を襖・障子だけの仕切りで残し、基本間取りは変えない事。
・玄関は増築する事。
・バリアフリーにする事。
・屋根は葺きなおす事。
・阪神大震災クラスの地震でも大破しない耐震補強をする事。(耐震補助の対象程度)
基本構造の確認
まずは現場を確認しに行きます。
柱・・・・柱が束石(コンクリート)に乗った構造です。
壁・・・・土壁です。
梁組・・・・純和風の梁組です。
居間・・・・壁無しで障子、襖で仕切られた部屋が4つ田型に配置されています。
土間・・・・居間部と土間は大きな段差があり、以前に何度かの改装をしてる事が分かります。
外部建具・・・・木製で木製の雨戸も付いています
表
裏
屋根土・・・・大量に土の乗った和瓦の屋根です。
洗い試験
使用されている木材は柱、鴨居をはじめ内装建具まで、今では入手困難なものも多々あるので、洗い試験をして改装後どのような状態になるのかを調べます。
鴨居洗い試験
天井洗い試験
内部建具洗い試験
今買ったらいくら掛かるか分からないような内部の立派な鴨居。
柱も洗いを掛ければ、古いなりに風情のある色、艶が出ることが確認されました。
破風洗い試験
軒天洗い試験
外部の破風板も軒板も長い風雨に耐え、まだ充分、役割を果たせそうです。
問題点
改装面では洗い試験、バリアフリー等、問題はありませんでした。
構造面で基礎、柱、束等は充分補修に耐えられますが、壁の少ない田型の4室をそのまま残しての耐震強度がネックとなりました。
壁の少ない和風建築
解決
現状一般的な筋かい、補強壁の許容応力での設計では無理なので、和風建築の特徴をそのまま残し、限界耐力法による解析での検討をしました。
現状の土壁はそのまま残し、土間部(台所、風呂、洗面等)の新設壁、欄間窓、小舞壁等を土壁と同じような働き及び、同程度の強度の面材を使うようにしました。
柱は基礎の上に乗せたままとし固定しませんでした。
ただし基礎部を広くし少々ずれても基礎から落ちないようにしました。
ダンパーを入れて揺れを小さくしました。
分かりやすく言うと、柱と梁に囲まれた部分を土を充填することによって、破壊を防ぎ、柱を固定しないことによりタタラを踏み力を逃がすという理屈です。
屋根は従来の土を使わずに(棟等に少量は使用)枠で瓦を固定する工法で重さを軽減するようにしました。
補強工事
補強工事 基礎 添え柱
束石(コンクリート)を広くし多少腐食あるいは刻みの欠損のある柱束は添え柱で補強しました。
補強工事 ダンパー
地震時の揺れを少なくするため仕口ダンパーを取り付け2枚の鉄板の間に特殊ゴムを挟みその摩擦で揺れを押さえました。
補強工事 荒壁パネル
補強工事 小舞壁 荒壁パネル
壁は筋かいや合板での補強ではなく荒壁パネルという土壁と同じ働きをする荒壁パネルを梁と柱に囲まれた内部に入れました。
建具の入った残りの小さな壁も荒壁パネルを使用しました。
補強工事 屋根
屋根は土の使用量を落として軽くするために木枠を組んで固定する工法を採用しました。
このような補強を行うことで耐震係数0.7以上で大きな地震でも大破はしない補強工事と改装工事が完了しました。
完成
After
新しい木材のように・・・
壁は塗り替えましたが木材は50年以上前のものです。
襖だけで隣の部屋と・・・
昔のまま隣の部屋との仕切りは襖だけです。
バリアフリーも確保できた玄関から居間、奥の台所へ
増築の玄関部分と屋根